西 感 「 女 暫 」 
● 能 ● 歌舞伎・文楽 ● 観劇エッセイ

 私がはじめてみた歌舞伎は「女暫」である。
もし最初に見たのが「ひらがな盛衰記」だったなら、私の歌舞伎感はずいぶん違ったものになったに違いない。
歌舞伎作品の中でも異色の存在…そんな「女暫」が2001年2月歌舞伎座で再び公演された!


 「女暫」は巴御前が主人公で、清水義高・根井・手塚ら歴々のメンバーが登場し、舞台は義仲死後の鎌倉らしい。
私が上演前に知っていた情報はその程度だった。もしあなたならどんな作品を想像するだろう。私は「巴が鎌倉に召し出された…ってのをモチーフにした作品かしら」と大変マジメに想像してしまっていた。そしてうきうきと歌舞伎座へ出かけ、パンフレットを一読し、呆然としてしまった。

 それまで歌舞伎について、ほとんど知らなかった私は、「歴史物は史実に忠実」と思いこんでいたのだ。しかしそれは大間違いで、歌舞伎の歴史ものというのは…いわばキャぷつばの長編やおい本のような(何て言ったら読者はさらに困惑するかもしれないが)…登場人物の名前だけを借りたアナザーストーリーなのである。
死んでたはずの樋口が実は生きていて仇討とか、同じ源氏に殺された義仲の父が平家に殺されたり…中でも「女暫」はアナザーのアナザー、大パロディ作品なのだ。


 実は歌舞伎十八番に「暫」というものがある。歌舞伎を知らない人でも、主人公の写真を見たら「どこかで見た事がある?」と思うくらい有名な作品である。この作品も一応歴史物の体裁を取っているが、内容は小市民的な主人公が、腹黒いヤツらにねちねちいびられている所に、正義の味方が登場しやっつける!という、どこかで聞いたような…正に時代劇!(転じてアニメ&特撮ヒーローモノ)…内容なのだ。
おまけに悪いやつはとことん悪そうな扮装で、正義の味方はやたら派手。アクションもひじょーにコミカルと、初心者の人でも「歌舞伎らしさ」を手軽に楽しめるオススメ作品だ。

 では、「女暫」とは?

 昔昔、一斉を風靡した「女形」がいた。あまりにはやったもんだから、男が主人公の作品もムリヤリ「女版」にしてやってしまったらこれが好評で、いろんな演目が「女○○」なんてことになってしまった。…あるよね、マンガとかでも…その中のひとつが「女暫」なのだ。
主人公も当初は武家の娘や、強力の町娘とか、遊女とか、いろいろなバージョンがあったが、淘汰されて行くうちに「巴御前」に落ち着いたらしい。その名残として現在演じられる内容でも、お話自体が終わった後に唐突に巴が遊女の格好で現れて、町の遊び人とおしゃべりするシーンがある。

 「女暫」は「暫」のパロと言うことさえ知っていれば初心者にもわかりやすく楽しいオススメの一作である。
 史実や、巴の悲哀などは求めてはいけない。ただただ巴が正義の味方として登場してカッコイイ☆のを堪能してほしい。
必見は源範頼の動作と、巴のアクションで敵の首が飛ぶシーン!爆笑まちがいなし。
 歌舞伎にチャレンジしてみようかなと言う方、是非おためしあれ!


初出/紅丸組ペーパーKISO*KISO0012(2000・12)
木曽義仲の基礎知識/kaori-nishikawa1996