歌舞伎・文楽
●能 ● 歌舞伎・文楽 ● 観劇エッセイ

 義仲にまつわる歌舞伎・文楽は、いくつも作られたが、現在も上演されているものは少なく、「源平布引瀧〜義賢最期〜実盛物語」「ひらがな盛衰記〜逆櫓〜」「女暫」「近江のお兼」等である。しかも3年に一度巡り合えればラッキーかもしれない。
歌舞伎・文楽作品の面白い所は史実をほとんど無視しているところで、「布引瀧」では、義賢を討つのは平氏(史実では頼朝の兄・悪源太義平)、義仲の母が葵御前(葵は義仲の妾といわれているが、一考を要する)、 諏訪出身の武将・手塚光盛がなぜか平家方の瀬尾の孫など、挙げればきりがない。
また、ほかの演目や当時の本などからのアイデアの横流しも多く、日本人のパロディ好きの原点を見る感じである。

キャラクターで最も多く登場するのは、巴で、義仲関連のほか、和田合戦や曾我物語関連の歌舞伎にも朝比奈三郎の母として登場することがある。 特に、古典の説話である「近江のお兼」を「巴」に結びつけた「加賀篠原合戦」は演目自体は廃れてしまったが、巴が初登場するシーンだけ、「近江のお兼」と言う舞踊演目に独立し現在もしばしば上演される。
意外に多く出てくるのは根井で、義仲の家臣の代名詞のように、ぽこぽこ出てくる。(ただし、名前はまちまちである)樋口兼光は主役をはる「ひらがな盛衰記〜逆櫓」があるが、兼平メインはなぜか見当たらない
また、「実盛」人気のためか、手塚光盛もさまざまな演目に登場する。

●作品一覧
源平布引瀧
全四段。(二・三・四段目が義仲関連)人物義賢・葵(義仲母)・駒王丸・実盛・手塚光盛など平家「実盛」
史実を大胆に脚色、源平の対立、義賢の最期、源平両者に仕えた武将斉藤実盛を描く。
※ 実盛関連のエピソードから「二張弓千種重藤」「老樹晴紅葉直垂」が派生。
ひらかな盛衰記
全五段。(三・五段目が義仲関連)人物樋口兼光・巴・山吹・駒若丸(山吹の子)平家「木曽最期」「逆櫓」
父の計らいで、義仲と頼朝にそれぞれ味方したお筆姉妹から見た武将の生き様を描く演目。樋口は二人いる主人公の一人。
義仲に殉死できなかった樋口の悲哀が泣ける。
女暫
短編人物巴・清水義高・手塚光盛他多数歌舞伎「暫」
悪役に対して「暫く!」と声をかけ、正義の味方が登場、悪を討つ「暫」のパロディ。
※正義の味方が女なので「女暫」という。巴が主人公では無い「女暫」もある。
加賀篠原合戦
全四段。すべて義仲軍のエピソード人物義仲軍勢総出演篠原合戦までの平家
史実を大胆に脚色、義仲の秘められた幼少期などビックリエピソード満載。兼平が外道ぶりを大炸裂。巴は近江出身、山吹は実盛の娘など、女性たちの解釈も特有。
大変面白い演目であるが、廃れてしまったのが残念でならない
相生源氏高砂松
短編か?人物清水義高・大姫ほかしみづ物語・頼豪アジャリ怪鼠伝
史実を大胆に脚色、義高は父の仇頼朝の命を狙い頼豪アジャ梨から妖鼠術を受けて神出鬼没に頼朝を襲う。畠山重忠は黄金の猫の威をかりて義高の鼠の妖術を妨げる。
バトルする義高。大変面白そうな演目だが、廃れてしまった。
天晴れ軍師
短編か?人物根井創作もの?
義経の家臣泉は頼朝とたもとを分かち奥州へ逃げようとしていた義経を救うため、義仲軍残党のある男に、助けを頼む。しかしこの男、飲んだくれていてろくなものではない。
しかし、泉の目は確かだった。義経のピンチに男は花火をもって駆けつけ、どどんと一発頼朝軍にぶっ飛ばし、軍勢をけちらした。そして男は去っていく…。男の名は根井・・・。
豪快で絵になる面白そうな演目だが廃れてしまった。

この他「義仲勲功記」「有姿夢湖水」等がある。