●能 ● 歌舞伎・文楽 ● 観劇エッセイ

義仲にまつわる能として、倶利伽羅合戦を題材とした「木曽」、篠原合戦、特に「実盛の最期」を題材とする「実盛」、「木曽の最期」を題材とする「巴」「兼平」がある。
中でも「兼平」と「巴」は元にした部分が同じだけに、二人それぞれの「義仲の最期」に対する思いがのべられているようで面白い。
 普通、武将の霊が登場する能(修羅物)では、シテがまず生きている人間の姿で現われ、ワキと話をし、その中で正体を明かすと、霊体になって戦いの様子を再現し、最期に自分の供養を求め消えていくパターンになっている。
「巴」はその形を守り、自分の最後の戦いを再現し、「義仲の最期」までついていけなかった自分に対する供養を願っている。しかし「兼平」の場合は、義仲と自分の最期を再現し、「義仲」の供養を願って消えていく。自分の供養は求めないのだ。死して以後も望むのは義仲のこと。兼平の義仲に対する思いが伝わってくるようだ。


●作品一覧
「木曽」
…作者不明(木曽願書とも)人物ワキ 木曽義仲 シテ 覚明 場所 越前国埴生
倶利伽羅合戦を目前に、覚明が起請文を八幡社に捧げ、義仲に命じられて舞う。
「実盛」
…作者 世阿弥人物ワキ 僧 シテ 老人→実盛場所加賀国篠原
篠原合戦で手塚光盛に討たれた斉藤実盛の霊が戦い再現。僧に供養を願う。
「兼平」
作者不明人物 ワキ 旅僧 シテ 老翁→兼平の霊場所粟津が原
兼平の霊が義仲の最期を再現し、僧に義仲の供養を願う。
「巴」
…作者不明 観世小次郎か?人物ワキ 僧 シテ 里女(巴の霊)→巴場所粟津が原
巴の霊が義仲との別れを再現、最期まで共に出来なかった事を嘆き、僧に供養を願う。