源平布引滝
● 歌舞伎・文楽

義賢最期(全五段中二段目)

 都の木曽義賢館。近江の百姓九郎助が、娘・小万、孫・太郎吉の親子3人連れで屋敷の者を訪ねてきた。義賢の妻・葵御前は妊娠しているにもかかわらず、快く対応し館に招き入れた。
ところがそこに平家の手下がやってきて、「源氏の白旗を出せ」と大騒ぎする。義賢が後白河院に白旗を賜ったことを気に食わない平清盛が差し向けたのだ。
そのただならぬ様子に義賢は白旗を葵御前に託し、九郎助親子とともに落ち延びさせることにした。ところが平家の軍勢が館に乱入して義賢の郎党と戦闘がはじまってしまう。
九郎助一家も巻き込まれてしまうが、小万は女だてらに「100人にも、1000人にも勝ったから万」と呼ばれるツワモノで、追手をなぎ倒す。
白旗をめぐって平家郎党と義賢の死闘が繰り広げられ、その間に葵は泣く泣く落ち延びる。瀕死の状態に至った義賢は小万を呼び、白旗を葵御前に渡すように頼み、自らは軍勢を相手に最期の戦いを繰り広げ、死を遂げる。


実盛物語(3段目)

葵御前は九郎助の自宅に保護されていた。産み月もまじかである。しかし小万と白旗は行方不明のままだ。
元気のない葵御前に精をつけようと、九郎助は孫の太郎吉と釣りに出掛けるが、そこでなぜか白旗を握った女の腕を釣り上げてしまう。
家に腕ごと持ち返って確認してみると、何とそれは義賢が小万に託した旗。「まさか…」と一同が寒くなっていると、平家の使いである瀬尾・斎藤実盛の二人が屋敷にやって来た。
「ここに義賢の女・葵御前がいることはわかっている。清盛様は『源氏の胤は絶やさねばならぬ。胎内まで腹割いて見よ』と仰せだ。葵御前を出せ」という。
九郎助がなんとか食い止めようとしていると、妻が「葵様が産気付かれた」と言う。
瀬尾は「腹を割かれたくないから産気付いたといってごまかす気だな。本当に生まれたのなら餓鬼を連れてこい」と言う。
九郎助の妻は錦のふくさを差し出す。すると中には先程の女の腕が…。なんと九郎助夫婦は、葵御前が腕を産んだといってごまかす気らしい。
しかし、なぜか瀬尾はすっかりそれに納得してしまい、屋敷から出ていってしまう。実盛は葵に対面し、実は小万の腕を斬ったのは自分だと言って事の次第を話し始めた。

平宗盛の竹生嶋詣に従い、実盛が瀬田唐橋の辺りに漕ぎ出した時のこと。女が口に何かをくわえて浮き沈みしている所に出会った。助けてみると、義賢の白旗をもって逃げていた小万であった。
平家の手下たちは小万を殺して旗を奪おうとした。実盛は小万の命を助けられればと旗を持っていた腕を切り落としたが、なぜか腕を斬っただけで小万は死んでしまった。
もしかして魂を込めて旗をにぎっていたために腕に魂が宿っているのかもしれない。そう考えれば旗を持った腕が九郎助の所にたどり着いたのも不思議ではない…と。

そんなことを話していると、小万の亡骸が漁師たちによって運ばれて来た。物は試しと実盛が斬った腕を亡骸に継ぎ合わせると小万は生き返った。
そして、「旗はどうなりましたか」と聞くので、葵が「私の手にあります」と答えると小万は安心したのかそのまま亡くなってしまった。
すると、九郎助が思いもよらないことを語り始めた。実は小万は九郎助の実の娘ではなく、懐に金刺と彫り付けられた匕首を持たされて捨てられていたのだ。
それを今まで隠して育ててきたと…。そんな話をしていると急に葵が産気つき、男の子・駒王が生まれた。
九郎助は、「母の志を継がせ、太郎吉を駒王の家臣にしよう」といいだした。
実盛は「それでは、小万の手を塚に葬って、太郎吉の名を手塚光盛とするといい。そして、若君を連れて、義賢公の出身地諏訪へ向かわれるがよい。」と九郎助に言う。
するとそこに帰ったはずの瀬尾が再び現れた。「こんな事だろうと思ったぞ。実盛!さあ生まれた子供を差し出すのだ!」一同の危機に、太郎吉は母の形見の刀を手に瀬尾めがけて飛び込んだ。
瀬尾は脇腹をさされて倒れ込んだ。そしてなぜか「これで太郎吉はまさしく駒王どのの家来ですな」と喜んで言う。わけが分からない一同。
実は瀬尾こそが小万を捨てた親だったのだ。瀬尾は「私の首を取って功名を立てなさい」と言って太郎吉に自ら討たれる。
太郎吉は「これから俺は侍。母上を殺した仇の実盛を討つ!」と言う。実盛は「成人してから若君と兵を上げなされ。その時北陸で私を討つがいい」と言って去っていくのだった。

初出/木曽義仲の基礎知識 別冊「古典芸能」

・・・正直なところ、訳していて頭を抱えました・・・とんでもないストーリー展開なので。私も、「この伝承をストーリーのここで使おう」とか、漫画的に いろいろ考えることがありますが、漫画でもここまでやらないよ・・・というぶっ飛びぶり。特に「実盛物語」は平家自体を良く知っている人には面白いどんでん返し満載ですが、 ついてこられる人が現代では少ないのが残念。
義賢最期の方はアクションもので、ふすまを使った倒れ技が見ものです。


木曽義仲の基礎知識/kaori-nishikawa1996